【第一部】粘度の基礎知識 ~身近な「とろみ」から高粘度素材まで~
■ 粘度とは?
粘度とは、物質の「ねばりの度合い」を数値で表したものです。粘度とは物質のねばりの度合であり、粘性率、粘性係数、または絶対粘度とも呼ばれます。国際単位(SI単位)では「Pa・s(パスカル秒)」が用いられ実用的にはより小さい単位である「mPa・s(ミリパスカル秒)」が使われています。かつては「P(ポアズ)」や「cP(センチポアズ)」というCGS単位も使われており、現在も一部の業界で目安として使われています。数値が大きいほど粘り気が強く、数値が小さいほどサラサラとした流体であることを示しています。
参考文献:Wikipedia「粘度」https://ja.wikipedia.org/wiki/粘度
スリーボンドグループ「『粘度』はどんな単位で表せる?」https://www.threebond.co.jp/technical/familiar-queries/thixotropy/
■ 粘度はどのように変わるのか?そのプロセスは?
粘度は物質固有の性質であると同時に、温度によって大きく変化します。液体は温度が低いと「ドロドロの状態」、温度が高いと「サラサラの状態」に粘度が変化し、たとえば水は0℃で1.792mPa・sであるのに対し、100℃では0.282mPa・sまで低下します。これは温度が上がることで分子の熱運動が活発になり、分子間力が弱まって流れやすくなるためです。また、マヨネーズやケチャップのような一部の物質は、力を加える速さ(せん断速度)によっても見かけの粘度が変化する性質を持っており、せん断速度によって流体の見かけ粘度が大きく変わるという事実は、撹拌翼の形状や回転数を検討するうえで重要な意味を持ちます。
参考文献:キーエンス「流体の粘度と目安」https://www.keyence.co.jp/ss/products/process/flowmeter/selection/viscosity.jsp
住友重機械プロセス機器「撹拌講座:『粘り気』の単位が粘度」https://www.shi-pe.shi.co.jp/products/mixing/lecture/basic003/
■ 粘性が高い・低いとは
粘度が低い液体はサラサラとして流動性が良く、粘度が高い液体はとろみがあったりドロドロとしていて流動性が悪くなります。水のように低粘度の流体は容器を傾けるとすぐに流れ出しますが、はちみつや水あめのように高粘度の流体は、傾けてもゆっくりとしか流れません。産業の現場では、この「流れにくさ」が配管の圧力損失やポンプの選定、撹拌機にかかる負荷など、設備全体の設計に直結する重要な要素となります。

参考文献:MONOVATE「粘度とは?高粘度の液体でよくある問題と対策」https://www.monovate.co.jp/blog/blog/b-column-viscosity/
■ 粘度の違い
粘度の違いは、物質の分子構造や分子間力の強さによって生まれます。分子間力が強いほど分子同士が引き合う力が大きく、流動させるためにより大きなエネルギーが必要となるため粘度は高くなり、分子量が大きいほど粘度は一般的に上昇する傾向があります。また、水のように力の加え方に関わらず粘度が一定の「ニュートン流体」と、ペイントやマヨネーズのように力の加え方によって粘度が変化する「非ニュートン流体」に分類できる点も、粘度の違いを理解するうえで欠かせない視点です。この法則に従う流体をニュートン流体、従わないものを非ニュートン流体と呼び、非ニュートン流体には比較的高粘度の液体が多く含まれます。
参考文献:株式会社タクミナ「9-1. 粘度とは?」https://www.tacmina.co.jp/library/basics/884
白丸くん「粘度が高いとは?流動性への影響と目安も解説」https://white-circle7338.com/high-viscosity-impact-guide/
■ 粘度のコントロールの重要性とは?
製造業において、粘度を適切にコントロールすることは、製品の品質そのものを左右する重要な要素です。粘度が低すぎれば容器から液だれしたり、成分が分離したりする恐れがあり、逆に高すぎれば配管内で詰まりが生じたり、撹拌に必要な動力が過大になったりします。特に高粘度な素材は、撹拌槽の中で流れが乱流になりにくく層流域にとどまりやすいため、均一に混ぜ合わせるための撹拌設計や、熱をムラなく伝えるための熱交換設計が非常に重要になります。
参考文献:住友重機械プロセス機器「撹拌講座:動力変化で流れが見えますか(後編)」https://www.shi-pe.shi.co.jp/products/mixing/lecture/basic006/
■ 高粘度な素材・製品を扱う業界は?
高粘度な素材は、食品、化学、化粧品、医薬品、印刷、潤滑油など非常に幅広い業界で取り扱われています。株式会社櫻製作所も、流体のエキスパートとして化学・食品・医薬・化粧品・発電/石油化学プラント・水処理などの業界へ、高粘度な原料の加熱・冷却・混練を可能にする掻き取り式熱交換器「オンレーター®」をはじめとする製品を提供してきました。ここからは、実際に高粘度な素材・製品として代表的なものを一つずつご紹介していきます。
参考文献:株式会社 櫻製作所「掻き取り式熱交換器」https://www.sakuraseisakusho.co.jp/scraping/heat/
■ ワックス
ワックス(蝋)は常温では固形またはペースト状ですが、加熱すると液状化し、その融点付近では温度のわずかな変化によって粘度が劇的に変わる代表的な素材です。液状化した状態でも比較的高粘度であるため、金型への充填や成形の際には、温度管理と粘度管理を一体で行う必要があります。
■ ソース
ウスターソースやとんかつソースなどの調味料ソースは、野菜や果実のペースト、糖分を多く含むため、水に比べて高い粘度を持ちます。とろみの強いソースほど非ニュートン流体としての性質が強くなり、容器から注ぐ際の「出やすさ」と、料理に絡む際の「とろみ感」を両立させるための粘度設計が行われています。
■ チョコレート
チョコレートは常温では固体ですが、溶融させると40℃前後でおよそ10,000〜25,000 mPa・sという高い粘度を示します。溶かした後は「テンパリング」と呼ばれる温度調整工程を経て安定した結晶構造に導く必要があり、粘度と温度を同時にコントロールしながら扱う代表的な高粘度食品です。
参考文献:テクテク(TechTech)ライフ「粘度とは?単位換算は?目安や記号も!」https://nohohon-life67.com/nendo-unit/
■ マーガリン
マーガリンは油脂を乳化し、急速に冷却しながら練り込むことで、なめらかな食感となめらかな結晶構造を作り出す食品です。冷却が不均一だと結晶が粗くなり食感がざらついてしまうため、冷却と撹拌・混練を同時に高いレベルで行う必要がある、粘度管理の難しい高粘度素材の一つです。
■ チーズ
チーズは種類によって粘度が大きく異なり、クリームチーズのようにやわらかいものから、加熱溶融させて成形するプロセスチーズのように高粘度なものまで幅広く存在します。特にプロセスチーズの製造では、原料を加熱溶融しながら撹拌して均一な組織を作る工程が品質を左右します。
■ 軟膏
軟膏は皮膚に塗布して患部にとどまるよう設計された医薬品であり、常温で形を保てる高い粘度を持つ半固形の製剤です。軟膏やグリースなどの高粘度物質は、遠心遊星運動を利用した混練装置で短時間に混練・脱泡する方法が用いられています。
参考文献:イーガー株式会社「ニーダー・プラネタリーミキサー」http://www.eagercorp.biz/electrode_material_preparation.html
■ 化粧クリーム
化粧クリームは、油分と水分を乳化剤で安定させた高粘度な乳化製品です。加熱による乳化と冷却による粘度の安定化を経て製造されるため、乳化状態を壊さずに温度と粘度をコントロールする技術が求められます。
■ 油脂類
食用油脂の中には、常温で液状のものもあれば、パーム油のように融点が高く常温付近で粘度が急上昇するものもあります。配管内での固化を防ぐために、貯蔵・搬送の段階から一定の温度を保つ加温設備が欠かせません。
■ インク
印刷用インキは種類によって粘度が大きく異なり、シルクスクリーン印刷などで扱うインクの粘度は用途に応じて幅広い数値が設定されています。粘度が低すぎればにじみが生じ、高すぎれば版通りが悪くなるため、印刷方式ごとに最適な粘度域が細かく決められています。
参考文献:premiumT「インクの粘度(cps、mPa・sなど)について」https://premiumt.jp/インクの粘度(cps、mPa・sなど)について/
■ 飴
飴や水あめは糖分を煮詰めて作られる食品で、水あめはおよそ10,000〜100,000 mPa・sという非常に高い粘度を持つことが知られています。温度が下がるにつれて急激に粘度が上昇するため、成形のタイミングを見極める温度・粘度管理が製造の要となります。

参考文献:テクテク(TechTech)ライフ「粘度とは?単位換算は?目安や記号も!」https://nohohon-life67.com/nendo-unit/
■ マヨネーズ
マヨネーズは油と酢、卵黄を乳化させた食品で、およそ5,000〜20,000 mPa・sの高い粘度を持つ非ニュートン流体です。容器から出すには一定以上の力が必要ですが、いったん流れ始めると粘度が下がるという性質を持っています。
参考文献:テクテク(TechTech)ライフ「粘度とは?単位換算は?目安や記号も!」https://nohohon-life67.com/nendo-unit/
白丸くん「粘度が高いとは?流動性への影響と目安も解説」https://white-circle7338.com/high-viscosity-impact-guide/
■ コンデンスミルク
加糖練乳(コンデンスミルク)は、牛乳を濃縮し多量の砂糖を加えることで保存性を高めた食品です。濃縮と加糖によって水分含量が下がる分、通常の牛乳に比べて粘度が大きく上昇し、とろみのある液状を保っています。
■ ケチャップ
トマトケチャップも非ニュートン流体の代表例であり、高い粘度を持つ食品です。一定以上の力を加えるまで流れ出さない性質を持ち、瓶を振ったり容器を押したりすると急に流れ出すのはこのためです。
参考文献:テクテク(TechTech)ライフ「粘度とは?単位換算は?目安や記号も!」https://nohohon-life67.com/nendo-unit/
白丸くん「粘度が高いとは?流動性への影響と目安も解説」https://white-circle7338.com/high-viscosity-impact-guide/
■ カスタードクリーム
カスタードクリームは、卵・牛乳・砂糖にデンプンを加えて加熱することで、デンプンの糊化により粘度が大きく上昇する食品です。加熱の初期段階では低粘度でも、糊化が進むにつれて急激に高粘度化するため、工程の途中で必要な混練力が変化する点が製造上の特徴です。
■ はちみつ
はちみつは糖濃度が高く分子間の水素結合が強いため粘度が高く、およそ2,000〜10,000 mPa・sの範囲で、温度によって大きく粘度が変わることが知られています。冬場に固まったはちみつを温めると流れやすくなるのは、この温度依存性の典型例です。
参考文献:白丸くん「粘度が高いとは?流動性への影響と目安も解説」https://white-circle7338.com/high-viscosity-impact-guide/
■ 歯磨き粉
歯磨き粉は高粘度の非ニュートン流体であり、チューブから押し出すときは流れやすく、静止すると形を保つという使いやすい特性が粘度設計によって実現されています。この性質は、洗面台に絞り出した歯磨き粉が液だれせずに山型を保つ様子からも実感できます。

参考文献:白丸くん「粘度が高いとは?流動性への影響と目安も解説」https://white-circle7338.com/high-viscosity-impact-guide/
■ 超音波用ゼリー
超音波検査で使用するエコージェルは、プローブと皮膚の間に空気が入らないよう密着させるために、水溶性でありながら一定の高い粘度を持つよう設計されています。粘度が低すぎると流れ落ちてしまい、高すぎると塗布や拭き取りがしづらくなるため、医療現場での使いやすさを踏まえた粘度設計が行われています。
■ シャンプー
シャンプーも高粘度の液体の一例として挙げられており、髪や手のひらへの広がりやすさと、液だれのしにくさを両立させる粘度設計がされています。歯磨き粉と同様に、静置時は形を保ち、力を加えると流れやすくなる非ニュートン流体としての性質を持つ製品が多く見られます。
参考文献:premiumT「インクの粘度(cps、mPa・sなど)について」https://premiumt.jp/インクの粘度(cps、mPa・sなど)について/
■ パイプ用洗剤
排水管用の洗浄剤(パイプクリーナー)の多くはゲル状で、あえて高い粘度に設計されています。これは、洗浄液が配管の内壁に長くとどまり続けることで、汚れや詰まりに対する洗浄成分の接触時間を確保するための工夫です。
■ グリース
グリースは潤滑油に増ちょう剤を加えて半固形状にした潤滑剤で、高粘度物質として扱われ、遠心遊星運動を利用した混練・脱泡装置などで加工されています。常温でも流れ落ちにくい高い粘度を持つことで、機械の摺動部にとどまり続け、潤滑効果を長時間維持できます。
参考文献:イーガー株式会社「ニーダー・プラネタリーミキサー」http://www.eagercorp.biz/electrode_material_preparation.html
■ ポリマー液
ポリマー(高分子)を含む溶液は、高分子では分子鎖の絡み合い(エンタングルメント)が粘度を劇的に増大させる主要因となり、臨界分子量を超えると粘度は分子量の3〜4乗に比例して急上昇します。塗料やインキ、接着剤、電池材料のスラリーなど、ポリマー液は非常に幅広い産業で高粘度な原料として扱われています。
参考文献:白丸くん「粘度が高いとは?流動性への影響と目安も解説」https://white-circle7338.com/high-viscosity-impact-guide/
【第二部】高粘度物質と熱交換 ~なぜ難しく、どう解決するのか~
前回の第一部では、粘度の基本的な考え方と、身の回りにある高粘度な素材・製品の具体例についてお伝えしました。第二部では、こうした高粘度な物質がなぜ熱交換の観点で扱いにくいのか、その理由を技術的に掘り下げたうえで、掻き取り式熱交換器がどのようにその課題を解決しているのか、そして実際に導入を検討する際にどう進めればよいのかを詳しく見ていきます。
■ 高粘度物質と流れの状態(層流・乱流)の関係
流れが「層流」になるか「乱流」になるかは、レイノルズ数と呼ばれる無次元数によって判断できます。レイノルズ数は慣性力と粘性力の比であり、流体が動こうとする力に比べてそれを抑える力が強い、つまり粘度が高いほどレイノルズ数は小さくなります。撹拌槽においては、このレイノルズ数がおおよそ50より小さい場合は「層流域」、おおよそ1000より大きい場合は「乱流域」とされています。低粘度の水のような流体は、通常の撹拌条件でもレイノルズ数が数千から数万に達し、槽内のあらゆる場所で不規則な渦が発生する乱流域に入ります。この渦こそが、流体自身を掻き混ぜて熱を槽内全体に運ぶ「対流による熱輸送」の主役です。ところが粘度が数千〜数万mPa・sに達するような高粘度物質では、同じ回転数・同じ槽サイズでもレイノルズ数が一桁、二桁まで下がり、層流域にとどまってしまいます。層流域では流体は撹拌翼や伝熱面にほぼ貼り付いたように規則的にしか動かないため、伝熱面近くの熱が流体の自然な動きだけでは内部まで運ばれず、伝熱面に接した薄い層の中だけで温度が上下してしまいます。これが、高粘度物質を単に温めたり冷やしたりするだけでは中心部までなかなか温度が変わらない、という現象の定量的な背景です。

参考文献:神鋼環境ソリューション「撹拌を知ろう!撹拌動力」https://www.kobelco-eco.co.jp/process_equipment/agitation/agitation_power.html
住友重機械プロセス機器「撹拌講座:動力変化で流れが見えますか(後編)」https://www.shi-pe.shi.co.jp/products/mixing/lecture/basic006/
■ 掻き取り式熱交換器の構造としくみ
高粘度物質が層流域にとどまりやすく、自然な対流に頼れないのであれば、機械の力で強制的に流体を動かし、伝熱面に触れる部分を絶えず入れ替えてやればよいということになります。これを実現しているのが、掻き取り式熱交換器です。代表的な掻き取り式熱交換器であるオンレーター®は、二重構造のシリンダー内を原料が通過し、その外側のジャケット部分に加熱または冷却用の媒体を流すことで、原料の温度と物性をコントロールする構造になっています。さらに、シリンダー内部には、加熱時のこげつきや冷却時の凍てつきを防ぐ掻取羽(ブレード)を備えたユニットや、原料を混練するためのピンを配置したユニットがあり、用途に応じて自由に組み合わせられるようになっています。この掻き取り羽根がシリンダー内壁を常時なぞりながら回転することで、伝熱面に接している薄い層の流体を絶えず剥ぎ取り、内部にあるまだ温度変化していない流体と入れ替え続けます。これにより、層流域にある高粘度物質でも、あたかも乱流状態にあるかのように伝熱面全体に新しい流体を触れさせ続けることができ、連続的な加熱・冷却が可能になります。この構造は少量生産から大量生産までのサイズに対応できるため、ラボスケールの試作から工場での連続生産まで、同じ考え方で設計を展開できる点も特長です。
参考文献:株式会社 櫻製作所「掻き取り式熱交換器」https://www.sakuraseisakusho.co.jp/scraping/heat/
■ 掻き取り羽根の形状と材質
掻き取り羽根は、伝熱面にどれだけ密着し続けられるかによって性能が大きく左右されます。羽根が伝熱面から浮いてしまうと、その隙間に流体がとどまり続けてこげつきの原因になるため、シリンダーの微妙な真円度のズレや熱膨張による寸法変化があっても伝熱面に追従できるよう、ばねなどで羽根を軽く押し付ける可動式の構造が採用されることがあります。羽根の材質についても、耐摩耗性や耐食性を重視して金属製とする場合と、伝熱面を傷つけにくく摩擦抵抗が小さいことを重視して樹脂製とする場合があり、扱う原料の粘度や固形物の有無、求める伝熱効率、洗浄頻度などに応じて使い分けが検討されます。いずれの場合も、羽根の摩耗は装置の掻き取り性能に直結するため、定期的な点検・交換が欠かせない消耗部品として位置づけられています。
■ 高粘度物質ごとの熱交換の難しさ(素材別の課題)
第一部でご紹介した高粘度素材は、それぞれ異なる理由で熱交換が難しくなります。チョコレートは、テンパリングという狭い温度帯での結晶構造の作り込みが必要なため、加熱・冷却のムラがそのまま結晶構造の乱れやブルーム現象につながりやすい素材です。マーガリンやショートニングは、冷却と同時に撹拌を行わなければ結晶が粗くなってしまうため、「冷やす」と「動かす」を同時に高いレベルで行う必要があります。マヨネーズやカスタードクリームは、加熱によって乳化や糊化といった構造変化が進みながら粘度そのものが工程の途中で大きく変わっていくため、装置には粘度変化に対応できる撹拌力の余裕が求められます。飴や水あめは、温度が下がるにつれて粘度が急激に上昇するため、冷却が進むほど流体を動かすために必要な力が増えていくという特性があります。デンプン糊液も同様に、糊化が進むほど流動性が急激に低下するため、加熱の初期と終盤とで必要な撹拌・掻き取り力が大きく変化する点が製造上の難しさになっています。このように、高粘度物質はひとくくりにできず、粘度がどのタイミングでどう変化するかという「粘度の履歴」を踏まえた熱交換設計が必要になります。
■ 高粘度対応の熱交換器を選ぶときのポイント
高粘度対応の熱交換器を選定する際には、まず処理したい原料の粘度域と、その粘度が加熱・冷却の過程でどう変化するかを把握することが出発点になります。そのうえで、単位時間あたりにどれだけの量を処理したいかという処理能力(kg/h)、必要な伝熱量を確保するための伝熱面積、そしてジャケット側を流れる加熱・冷却媒体の温度をどこまで精密にコントロールできるかという温度制御方式が、機種選定の主要な検討項目になります。食品・化粧品・医薬品向けの用途では、装置内部を分解せずに洗浄できるCIP(定置洗浄)への対応や、原料が滞留しやすいデッドスペースの少なさといった衛生面の要件も重要です。また、原料に固形物が含まれる場合は、掻き取り羽根やシリンダーの流路が固形物によって詰まったり傷んだりしないかという点も、あらかじめメーカーとすり合わせておくべきポイントになります。
■ 高粘度物質の熱交換における省エネ・生産効率の視点
バッチ処理で加熱・撹拌・冷却をそれぞれ別の工程・別の装置で行う場合、原料を装置間で移し替えるたびに温度が下がったり、次の工程の立ち上がりを待つ時間が発生したりと、目に見えないエネルギーロスや時間ロスが積み重なります。これに対して、加熱・冷却と混練を1台で連続的に行える掻き取り式熱交換器のような装置は、工程間の移し替えや待ち時間そのものを減らせるため、同じ生産量を得るために必要な熱エネルギーと時間の両方を抑えられる可能性があります。また、原料が特定の場所に長時間滞留しにくい構造は、こげつきによる原料ロスや、洗浄にかかる時間・水・薬剤の量を減らすことにもつながり、結果として生産効率と省エネの両面でメリットを生み出します。もっとも、実際の省エネ効果は原料の粘度や生産量、既存設備の構成によって変わるため、導入検討時には現状のバッチ処理と連続処理とを条件をそろえて比較することが望ましいでしょう。
■ どのようにして導入するか
「高粘度対応の熱交換器を選ぶときのポイント」で整理した処理能力や粘度域といったスペック上の条件は、あくまでカタログや仕様書の上での話にすぎません。実際の原料は、粘度が均一でなかったり、温度によって想定以上に粘度が変化したり、微量の固形物を含んでいたりと、仕様書だけでは読み取れない特性を持っていることが多くあります。そのため、高粘度対応の熱交換器を導入する際には、実際の原料を使ったテストを経てから機種を決定することが欠かせません。多くの熱交換器メーカーでは、お客様保有の原料を用いた実機テストや、小型のパイロット機を使った試験加工を受け付けています。テストでは、狙った温度まで実際に到達できているか、伝熱面にこげつきや汚れの固着が起きていないか、原料の粘度が工程の途中でどう変化していくか、掻き取り羽根が原料の粘度に対して十分な性能を発揮できているかといった点を、机上の計算だけでなく実物で確認します。カタログスペックの比較だけで機種を決めてしまうと、実際に生産を始めてから「思ったように温度が上がらない」「こげつきが想定より早く起きる」といったミスマッチが生じるリスクがあるため、こうした実機テストの工程を省略しないことが、導入後のトラブルを防ぐ最も確実な方法といえます。
■ 導入までの流れ
高粘度対応の熱交換器の導入は、一般的に次のような流れで進みます。まず処理したい原料のサンプルや仕様(粘度、温度、流量、固形物の有無など)をメーカーに伝え、初期相談を行います。次に、前項でご紹介した実機テストやパイロット機を用いた試験加工を実施し、実際の原料での加熱冷却性能を確認します。テスト結果をもとに機種・仕様・材質を確定し、正式な見積もりと仕様書の取り交わしを行ったうえで発注に進み、製作・納品・設置・試運転を経て本格導入となります。
参考文献:株式会社 櫻製作所「掻き取り式熱交換器」https://www.sakuraseisakusho.co.jp/scraping/heat/
■ 導入事例
高粘度対応の熱交換装置は、すでに幅広い業界で導入が進んでいます。たとえば櫻製作所の掻き取り式熱交換器「オンレーター®」は、マーガリンやチョコレート、カスタードクリーム、マヨネーズ、レトルトカレーのルウ、デンプン糊液など、高粘度で固形物を含み、焦げ付きやすい食材の加熱・冷却・混練工程に幅広く採用されています。このように、原料の粘度や固形物の有無、求める処理能力に応じて仕様をカスタマイズできる装置を選ぶことが、高粘度素材を扱う製造現場の品質と生産効率を両立させるポイントとなります。ご興味のある方は、ぜひ一度、株式会社櫻製作所へお問い合わせください。
参考文献:株式会社 櫻製作所「掻き取り式熱交換器」https://www.sakuraseisakusho.co.jp/scraping/heat/
